きもの着付け教室と聞くと「教室で学ぶだけ?」と思われがちですが、
“日本文化そのものを楽しむ”ことを大切にしている長沼静きもの学院では、
教室外の体験授業も実施し、自由に参加していただくことができます。
きもの好きな方は、そろそろ今年の浴衣を探されている方も多いと思いますが、世界でたった一つの浴衣を自分で染めることができるのをご存じですか?
今回のコラムでは、毎年恒例のイベント「墨流し染め(すみながしぞめ)体験会」に参加された岡山校の体験レポートをお届けします!

1 偶然性から生まれる美。「墨流し染め」とは
墨流し染めは、水面に墨や染料を垂らし、その揺らめく模様を紙や布に写し取る技法で、日本古来より伝わる染色方法です。平安時代に中国のから伝わったことに起源をもち、日本独自の美意識と融合しながら発展してきました。
江戸時代には、墨流しは書画の背景や装飾紙に広く用いられましたが、同時に絹布や木綿布に応用され、着物の染色技法としても取り入れられるようになりました。特に、江戸中期から後期にかけては、個性的で幻想的な模様が人々の目を引き、「粋」を好む町人文化の中で人気を博しました。
墨流し染めのきものは、同じ模様が二度と作れない「一品もの」としての価値が高く、現在でも職人の手作業により丁寧に作られており、その繊細で流動的な美しさは、自然の偶然性と人の技の融合とされ、日本の美の象徴の一つとして評価されています。
2 岡山から弾丸日帰り旅! それでも参加したかった理由
2025年6月、高田馬場駅(東京・新宿区)に集合したのは、岡山校 教室長の鳥越真由美先生をはじめとする皆さん。
鳥越さん「自分で反物を染めることができるなんて夢のよう!」
Oさん「まさか自分で反物を染めることができるなんて思ってもいなかった。他ではできない体験ができると聞いて楽しみにしてきました」
Uさん「私も、自分の手で生地を染める体験をしてみたかったのです」
多忙なスケジュールの中、岡山⇄東京の弾丸日帰り旅となりましたが、それでも「絶対に参加したかった!」という期待感がワクワクした表情から伝わってきました!
3−1 イメージ膨らむ、生地・色柄選び
高田馬場駅から数分歩き、静かな住宅街の中にある工房『染の高孝』に到着。ここ髙田馬場にはかつて多くの工房があったそうです。
まずは、染める生地(反物)選びから。
麻や絹、ポリエステル製など複数の素材をご用意いただきましたが、初心者でも墨流し染めが美しく仕上がり、お手入れがしやすいとおすすめされた、以下の高級ポリエステル素材を選びました。
・セオアルファ(特徴:吸水速乾性に優れており、柄の写りが良く、肌触りも快適)
・シルジェリー(特徴、シルクのような光沢感と肌触りのちりめん生地で、シワになりにくい)


次に決めるのは、デザインと色。
墨流しで使われる主な柄はピーコック柄、矢羽柄、マーブル柄です。
「わぁ、この柄もこの配色も素敵!」
見本を見せていただくことで、イメージが膨らんできました。
3−2 神秘的な模様が現れる、染めの工程
ご指導いただいたのは、日本を代表する墨流し職人の高橋孝之さん。先代より続く「染め」の家業を継承するなかで、自ら墨流しの技法を確立させ、数々の賞を受賞されている方です。
まず、各自、希望するデザインを伝え、4種類の中から染料を選択します。
鳥越先生「デザインは斜めの流れる感じ。色のベースは鼠(ねずみ)色にして青と墨を入れて、渋めの感じに仕上げたい」
Oさん「デザインはピーコック柄。色のベースは紫で、ピンクと水色も入れたい」
Uさん「デザインは斜めで大人の雰囲気に。青緑をベースに、アクセントとして黄色、ピンクを少し入れたい」
高橋さんから「ピンクは淡い感じ? それとも臙脂(えんじ)に近い色が好み?」と、色選びのアドバイスをいただきながら、自分のイメージに近づけていきます。
色を選んだら、いよいよ染めの作業!
工房の床には、一反が入る、幅1メートル弱、長さ14メートルの水槽があり、水に糊など独自の配合を加えた液体で満たされています。そこに左手にカップを持ち、筆を染料に含ませたら、トントンと手首を細かく振りながら落としていきます。

落とした色が水槽に広がり、前に落とした色と調和すると、「わぁ、これだけでもキレイ!」と皆さんから声が上がりました。
高橋さんのようには手が動きません。染料の量が多かったり、少なかったり、端から端まで均等に落とすのは難しい…。プロとの違いを実感させられました。
でも、ムラがあるのも個性として魅力になるのが墨流し染めの良いところ。最後は、高橋さんが足りない部分に色を追加するなど、調整をしてくれるので安心です。

3-3 いろいろな道具を使って柄を付ける
染料が行き渡ったら、柄棒や櫛などの道具を使って、マーブル柄やピーコック柄などを付けていきます。
ゆっくり一定の速度で、止まらず歩みを進め、同じ幅、同じ方向へ動かすのがポイント!
これもなかなか難しい作業ですが、置いてあった染料が、イメージしていた柄へと変化していく様は感動的。ユーモアのある高橋さんのトークのおかげで、徐々に皆さんの緊張もほぐれ、楽しみながら作業することができました。



3−4 職人の神業! 生地に転写をして完成
柄が付け終わったら、最後の工程となる転写です。
職人さんが生地の両端を持ってピンと張り、息を合わせて水槽へ下ろします。
水面に生地が触れた瞬間、白い生地に柄が写る様は圧巻の一言!
職人の神業に思わず、拍手が起こりました。


柄が写った布は両端を柱へくくりつけ棒で上へあげて乾かします。
この後、100度近い蒸気で30分蒸した後、水槽で洗い、糊を落としたら完成。

残った染料で高橋さんが、龍が天に昇っているようなデザインを染め上げ、プロの高度な技術も堪能。
この後、次の回の横浜校の方と合流し、その作業も見学。意気投合して、女子トークが盛り上がり、他校との交流も深まりました!

「墨流し染めは、柄を選ぶところから、性格が現れます。皆さん、三者三様の面白さがありました。すごくいい出来で仕入れたいぐらいです。これを着たら、さらに“べっぴんさん”になってしまいますね」
高橋さんからお褒めの言葉をいただきました。高橋さん、ありがとうございました!
4 サマーパーティで浴衣をお披露目したい!
染めた反物は約1ヶ月後に教室に配送されます。届いた反物は、長沼静きもの学院の提携先で浴衣に縫製することが可能です。きものの知識が豊富な先生が採寸をしてくれるので、自分にとって心地よいサイズ感で仕立てることができますよ!
今回、自分の手で染め上げたことで、さらに、きものへの愛が増した皆さん。
Oさん「『見る』と『やる』では大違い。難しかったですが、とても楽しく、貴重な体験ができました」
Uさん「筆の振り方やむちのひき方等、思ったようにできず、難しかったです。また、やってみたいと思いました」
鳥越先生「生地選び・色選び・技法選びとすべてがオリジナルで、難しかったですが世界に1点だけという特別な作品ができて嬉しいです」
岡山校では、完成した浴衣を「サマーパーティ」で着用し、皆さんに「墨流し染め」の楽しさをお伝えする予定です。
鳥越先生「岡山校は明るくて穏やかな雰囲気です。授業だけでなく、校内イベントも充実しており、きものを着る楽しみや喜びが得られる教室です。今回のような貴重な体験もでき、他にも楽しいイベントを企画していますので、興味のある方、私たちと一緒にきものを楽しみましょう!」


まとめ 今後も楽しい体験授業を開催予定!まずは無料体験レッスンへ
当学院は全校で、着付けを学ぶだけでなく、今後もこうした生徒さま向けの体験授業やイベントを通して、きものや日本文化を身近に感じる機会を開催予定です。ご参加いただくことで、先生やお仲間との距離もぐっと縮まり、和気あいあいとした雰囲気の中で着付けの技術を楽しく身につけることができます。
まずは気軽に、お近くの教室の「無料体験レッスン」にお越しください!
• 着物を持っていなくてもOK
• 着付け未経験でもOK
• 和やかな雰囲気の中で、プロの先生から直接教わるチャンス!
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